来 歴


優しい塊


青ざめた山鳩は
いちばん遠くの冬から
記憶の崖っぷちに住みついて
こみ上げる悲鳴を噛み殺している
狂気に染まった夕日が
のどのあたりまで溢れてきて
からだを揺するたびに
哀しい山鳩の声をなぞってしまう
あれは日暮れになると
どの屋根よりも高い
アカシアの木にとまって
低い声でよびたてるあの山鳩だ
夢の中を飛びたっても
また夢の中へ帰るしかない
かすれた絵地図では
山鳩の森はいつもいちばん遠くにある

窓にはひるがえる真紅の薔薇
なぜかとがった棘を
痛い視野の底へめがけて
次々になげこもうとする
目に見えない明るさに閉じこめられ
昨日よりすきとおって行く空
その何もない空をひっかいている声
残りの時間を数えるわびしい声もする

山鳩 優しい魂の同義語
おまえと共有できるものと言ったら
今もアカシアの高い枝から聞こえる
あの胸を押しつぶす呻き声だけ

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